選挙の陣中見舞い「機密費から100万円捻出」 自民党元官房長官の証言、にじむ悔恨(中国新聞デジタル)
自民党の選挙戦では、「表に出さないカネ」が水面下で飛び交ってきた。そうしたカネの原資の一つとして取り沙汰されてきたのが、内閣の要である官房長官が一手に扱う内閣官房報償費(機密費)。ある元官房長官は「選挙に使ったことがある」と打ち明ける。国の施策推進のために予算化されている機密費の選挙への流用は、目的外使用の疑いをはらむ。(4回続きの3回目) 【写真】2019年に計約10億円の政策活動費を受け取った二階氏の領収証
前任長官から引き継がれた「機密費の使い道」
高層ビルが立ち並ぶ東京の都心。あるビルの一室で中国新聞の記者と向き合ったスーツ姿の高齢の男性が、言葉を絞り出すように語り始めた。 この男性は、2000年以降の自民党政権で官房長官を務めた元政権幹部。「どこそこにいくら、どこそこにいくらみたいなのを前任の官房長官から引き継いだ。自分が使うことより『ここへ』と言われて出した感じだった」。赤裸々に打ち明けたのは機密費の使い道だ。 機密費の目的は「国の施策の円滑かつ効率的な推進」。おおむね毎月1億円が国庫から支給され、官房長官の執務室の金庫に現金で保管される。年間の総額は約12億円。長官の判断で機動的に支出でき、領収書は取らなくてもいい。 内閣が抱える課題の情報収集や関係者の調整など、水面下での活動に使われるとされるが、使途は一切公表されないため実態は分からない。国会の野党対策や外遊に行く国会議員への餞別に充てられたとの証言や指摘もある。「権力行使の潤滑油」とも呼ばれ、首相官邸に陣取る政権中枢の一部しか触れることができないカネだ。
「出してはいけない」 原資は税金
その機密費を選挙に使うことはあるのか―。記者の問いかけに、この元官房長官は「あると思う」と語った。実際、国政選挙の候補者の選挙応援に行った時に、陣中見舞いとして渡す100万円を機密費から捻出したという。「首相が行けないから代わりに行ってくれと言われ、仕事みたいに思っていた。何らかのものを渡さないといけないと思った」と振り返った。 しかし、「国の施策推進」のための機密費を選挙に使うことは適切なのか。記者の質問に、元官房長官は言葉を詰まらせた。「厳密に言えば選挙ではいけないと思う。税金だから」。本来の目的を外れた不適切な支出だったと認めた。その表情には悔恨の念がにじんでいた。
選挙の陣中見舞い「機密費から100万円捻出」 自民党元官房長官の証言、にじむ悔恨(中国新聞デジタル)
ブラックボックスの使途 「月1千万円を総理に」野中元官房長官証言
機密を大義名分に、使途が公表されない機密費。一定期間を経た後にチェックする仕組みもなく、目的外の使用があっても分からないのが現状だ。 それでも、関係者が口を開いたり、出所不明の記録が出てきたりして使途の一端が表面化したことはある。大きなインパクトを残したのは、10年に共同通信の取材に応じた野中広務(18年死去)の発言だ。 自民党の小渕内閣(1998~99年)で官房長官を務めた野中は、国会で野党対策に当たる自民党国対委員長や参院幹事長にそれぞれ毎月500万円程度を渡していたと暴露。前長官からの引き継ぎ簿に基づき、政治評論家や野党議員にも配っていたと語った。 いずれも、国益や人命を守るための極秘活動に使われる機密費のイメージとは大きくかけ離れた使途ばかり。野中は「悪癖を直してもらいたい」と訴えた。自らが月に5千万~7千万円の機密費を管理し、首相にも毎月1千万円を渡していたことも明かした。
首相から2800万円提供疑惑 「機密費で出せないことはない」
野中の「告発」の2年後に誕生した安倍政権を巡っては、機密費流用疑惑が持ち上がっている。舞台となったのは、19年参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件だ。 この事件では、元法相の河井克行(61)が妻の案里(50)を当選させる目的で広島県内の地方議員や後援会員ら100人に計2871万円を渡した公選法違反罪で有罪が確定。捜査は終了しているが、「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きされたメモの存在が昨年9月、中国新聞の取材で明らかになった。 メモは捜査当時の20年1月、元法相宅を捜索した検察当局が押収していた。検察は、当時首相の安倍晋三(22年死去)が2800万円、官房長官の菅義偉が500万円、自民党幹事長の二階俊博が3300万円、党選挙対策委員長の甘利明が100万円を提供した疑いがあると分析。首相官邸に陣取る安倍と菅は機密費、党幹部の二階と甘利は政策活動費から出した可能性があるとみていたが、元法相がメモに関する取り調べに応じず、捜査は進展しなかった。
選挙の陣中見舞い「機密費から100万円捻出」 自民党元官房長官の証言、にじむ悔恨(中国新聞デジタル)
メモは元法相らの公判でも提出されず、闇に葬られていた。中国新聞が報道した昨年9月時点では、既に安倍は亡くなっており、取材はかなわなかった。残る3人は中国新聞の取材に応じ、菅と二階が現金提供を否定した一方、甘利はメモの記載通り100万円の提供を認めた。 安倍の2800万円提供疑惑に関し、前述の元官房長官に「機密費から出すことは可能なのか」と聞いてみた。「いろいろあるやつを集めて一つにして出せないことはない。毎月1億円が入ってくるから」。無理をすれば出せる額だとの答えが返ってきた。
「どう使っても違法にならないカネ」
後日、別の官房長官の下で官房副長官を務めた元衆院議員が取材に応じた。注目したのは、検察が押収したメモにある「すがっち500」の記載。当時官房長官だった菅が出そうと思えば、メモが示す500万円は機密費から容易に出せる額と断じた。 19年参院選で広島選挙区は全国有数の激戦区となり、注目を集めていた。「政権の命運に影響を与える選挙。それならば機密費を使う理屈にできる」。こんな見立てを語り、機密費をこう例えた。 「使途を明かす必要がなく、『この世に存在しないはずのカネ』があるようなもの。どういう使い方をしても、違法にならない」 年間約12億円の国費で賄われているのに、領収書を取らずとも支出でき、使途は一切公表されない機密費。今回の中国新聞の報道を機に、野党から運用の見直しや使途公開を求める声があらためて上がっている。しかし、政府は5月24日、過去に選挙向けに支出されたことがあるかどうかについて「現内閣において確認を行うことは考えていない」とする答弁書を閣議決定した。チェック機能の強化に向けた運用見直しも考えていないとし、不適切な取り扱いがあった際の罰則規定は不要との認識も示した。 機密費の性格上、即時の使途公開は難しいとしても、事後のチェックの仕組みや不適切な支出を防ぐルールは欠かせない。政府は税金の重みをかみしめ、見直しに動いてほしい。(文中敬称略)
取材を終えて
中国新聞「決別 金権政治』取材班 国益や国民を守るための機密費が、国政選挙の陣中見舞いに使われたと語った元官房長官の証言は重い。ただ、これは氷山の一角だろう。機密費は使途が公表されず、領収書を取る必要すらないため、使う側の規律がゆるみ、本来の目的を外れて使われているケースは少なくないのではないか。このままでは国民の不信が高まるばかりだ。 ※この記事は中国新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です
中国新聞社
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