「掲示場をジャックせよ」 都知事選候補者乱立の陰で掲示枠「販売」に波紋(産経新聞)
20日に告示された東京都知事選(7月7日投開票)で24人を擁立した政治団体が、ポスター掲示場の枠を事実上「販売」していることが波紋を広げている。公職選挙法には権利譲渡を禁止する規定はないが、〝売名〟など本来の目的とは異なる掲示場の使用が行われており、有識者からは対策を求める声が出ている。(市岡豊大、宇都木渉、梶原龍) 【写真】「女性の全裸選挙ポスター」をはがす候補者(一部画像処理をしています) ■「広告媒体」 「ポスター掲示場をジャックせよ。選挙ポスター掲示場の常識をぶっ壊す!」 政治団体「NHKから国民を守る党」の公式サイトは、こうした文言で参加者を募る。具体的には1口2万5千円を「寄付」すると、都内約1万4千カ所のポスター掲示場のうち1カ所を選び、候補者の枠に自ら作成したポスターを貼る権利が与えられる。 1口の寄付額は5月は5千円、6月1~19日は1万円だったが、告示以降さらに引き上げられた。同団体から出馬したのは関係団体を含め24人。応募した人は掲示板の半分ほどを占める最大24枚分のポスターを貼れることになる。同団体によると、21日現在で約1千カ所分の応募があり、1人で約100カ所分を応募した人もいるという。 同団体としては、1口1万円、掲示場1万4千カ所で単純計算した場合、1億4千万円の寄付収入が入る可能性がある。24人分の供託金(1人300万円)を支払っても6800万円の利益が出る計算だ。 同団体の代表は今回の「ポスタージャック」について紹介した動画の中で、配信サイトで生計を立てるユーチューバーを念頭に「いわゆる末端でも有名な人でもご自身の主張をしていくには広告媒体としては最高だと思う」とアピールする。 ■選管に苦情殺到 同団体の担当者は「寄付者に許可を出しているのであって、収益目的ではない」と説明するが、ビジネス利用ととられかねない動きに対し、林芳正官房長官は21日の記者会見で「候補者自身の選挙運動用ポスターを掲示するために設置されるもので、候補者以外が使用できるものではない」との見解を示した。 選挙運動を所管する総務省によると、公選法の規定では選挙ポスターは他候補の応援や虚偽内容でない限り自由で、チェックするための仕組みもない。ただ、松本剛明総務相は「公選法上、掲示の権利を売買するものとはされていない」と指摘し、処罰対象になるかどうかは捜査機関が判断するとしている。
都選挙管理委員会には21日までに「同一のポスターが貼られているのは何なのか」などとする苦情や問い合わせが千件以上寄せられた。
また、大量擁立で候補者数が増え、1カ所の掲示場に貼れる最大数48を超えたため、都選管は候補者にアクリル板を支給し、個別に増設を要請する対応を迫られた。
都内のある区選管関係者は「税金で運営される以上、疑問は感じる。ただ、違反がなければ取り締まるのは現実的に難しい」と漏らした。
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■「広告収入制限など事業者側の規制必要」
白鳥浩・法政大大学院教授の話
行政の長を決める真摯(しんし)な選択の場である選挙をビジネスにすることは、日本の民主主義自体を空洞化させ、政治不信を助長させる。
今回の「掲示板ジャック」は、供託金を没収されても掲示板を全部売れば収入が大きく上回り、ポスターを貼る様子を動画投稿するなど、選挙をビジネスモデルとして確立しようとする狙いがあると考えられる。
現行の公選法はインターネットがない時代に作られた法律で、ビジネスに利用される事態は想定されておらず、掲示板の内容は表現の自由の範囲であれば法的には問題ない。制限することも検閲にあたるので難しい。
動画投稿サイトなどを使って広告収入を得ることと、選挙で政策を訴えることは切り分ける必要がある。
選挙期間中の候補者や、候補者が属する陣営が出すコンテンツなどに対し、事業者側が広告収入を制限するなどの規制が必要だ。
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